気になるこの言葉。「パッシブソーラーシステム」って何だろう|編集長ブログ

その他
この記事が気になる

【この記事が気になるとは】
会員様限定のサービスです。 会員の方は、「ログインする」そうでない方は、
会員登録して再度アクセスしてください。

ログインする ⁄  会員登録する
閉じる
公開日:2011年4月21日
更新日:2019年12月19日
気になるこの言葉。「パッシブソーラーシステム」って何だろう|編集長ブログ1

こんにちは。大家さんのための賃貸経営マガジン「オーナーズ・スタイル」の統括編集長の上田です。今回は「雑学いろいろコラム」です。「パッシブソーラーシステム」とは何なのか、ということをご紹介します。

電力を使わず、住宅などの建物に冷暖房の役割を供給する「パッシブソーラーシステム」

2つの仕組み、「トロンブウォール」と「ダイレクトゲイン」とは

「パッシブソーラーシステム」とは何か?

それをひと言で言えば、「機械的な動力・設備無しで、受動的に、太陽の熱を冷暖房等に利用するシステム」と、いうことになります。

パッシブソーラーシステムとは、電力で何かを動かしたり、燃料を燃やしてものを温めたりするプロセスが無いまま、住宅などの建物に、暖かさや涼しさなどを供給する手段のことを言うのです。

たとえば、「トロンブウォール(トロンブ壁)」と呼ばれる仕組みがあります。建物の南に面する壁に、太陽熱を吸収するための、外面ガラス張りのコンクリート壁を組み込むなどします。コンクリート壁の片面は、建物内に露出するなどしています。日中、太陽熱で温められたコンクリート壁は、蓄えた熱をゆっくりと放出します。日が沈んだあとになっても、この放出は続き、建物の中を暖め続けてくれるわけです。

似たものに、「ダイレクトゲイン」と呼ばれるものがあります。
たとえば、南に面した窓の直下から、日中、日差しが届くあたりまでの範囲の床をコンクリート、あるいは石材敷きにするのです。トロンブウォール同様、それらに蓄えた熱をゆっくりと放出させることで、日没後の暖房に役立てようとするものです。

これら、トロンブウォール、ダイレクトゲインといった仕組みのポイントは、太陽熱を吸収させる素材にあります。熱をたっぷりと溜め込むことができる「熱容量」の大きな素材を使うのです。コンクリートや多くの「石」は、熱容量が大きく、素材の熱容量を利用したパッシブソーラーシステムにはうってつけです。

ほかには煉瓦も、これらに使われることがあります。熱容量が大きい、とは、すなわち、「温まりにくいが、一旦温まったら冷めにくい」と、いうことです。吸収された熱が放出されきってしまうまでの時間稼ぎができるため、「日が沈んでもまだ暖かい!」が、実現されるわけです。

ちなみに、こうした熱容量の大きな素材をうまく利用すれば、暖房だけでなく、建物の冷房にも役立てることができるのですが、そちらはまたの機会にお話しすることにしましょう。

軒や庇といった昔からの仕様も「パッシブソーラーシステム」の一種

トロンブウォールやダイレクトゲインのようなものばかりではありません。建物のかたち、細部の仕様など、設計やデザインそのものを工夫して、快適な室内温度を得ようとする方法も、パッシブソーラーシステムのひとつと言われています。

たとえば、簡単な例は、軒、庇です。現在建てられる一般的な住宅の多くは、屋根の軒、窓の庇などが深くありません。

ですが、古くからの日本の民家の多くは、大抵、深い軒や庇を持っています。こうした深い軒や庇の多くは、夏、建物内への日射を防ぎながらも、冬はそうではなく、家の中にまでしっかりと光が届くように、その長さや角度が工夫されています。

まさに、「受動的ではあるが、しっかりと太陽のエネルギーを利用する」と、いう意味で、パッシブソーラーシステムということができるでしょう。

こうした古い民家の知恵にも習うなどしながら、全国で、さまざまな設計士さん、工務店さん、建築家の方などが、一生懸命にパッシブソーラーシステムを考えていらっしゃいます。

たとえば、屋根の棟部分に排気ダクトを設けるなどして、熱くなった室内の空気をここから逃がそうという手法があります。「ヒートチムニー」と呼ばれたりしますが、古い民家でいう「腰屋根」・「煙出し」の役目の多くもこれにあたるでしょう。

一方、地面に近い建物の外側に外気導入口を設け、そこからは冷たい地中を経由するビニール管チューブをのばし、室内まで導く。「クールチューブ」と呼ばれる手法です。こうした工夫の組み合わせによって、建物内に空気の道をつくり、風をこしらえて、涼しさを増す。古くからの知恵と、新しい素材との組み合わせによるこんなパッシブソーラーシステムも実現しています。

とはいえ、一方で、こうした事実も踏まえておかなければなりません。当然のことですが、ちゃんと日が照ってくれなければ、トロンブウォールは温まりません。家の中に風をこしらえる設計・・・とはいっても、その涼しさは、エアコンを動かして得るものにかなうはずがありません。

パッシブソーラーシステムは、結局のところ、自然の温度環境にその効果が左右されやすく、また、いくらがんばっても、電気で機械を動かしたり、燃料を燃やしたりして得られる快適にはおよぶことがないのです。そこは、しっかりと理解しておかなければならないところでしょう。

もちろん、「パッシブだけで頑張りたい!」と、いう人もいないわけではないと思いますし、「エコ」の観点から見て、それはきっとすばらしいことであるとも思いますが、道は限られているわけではありません。

太陽光発電の導入、省エネ冷暖房器具の使用といったことと、パッシブソーラーシステムを上手に組み合わせることで、機械には多少頼るものの、より無駄の少ない快適を手に入れる。そんな道も、我々にはちゃんと用意されているはずです。

この記事をシェアする

関連する企業レポート

関連するセミナー・イベント

関連する記事